コロナ騒動により、一時は地方移住の需要増なども取り沙汰されました。今後の人口減少局面における田舎まちと空き家問題について、問題が顕著な“都心郊外“の事例から今後の予測を立てていきたいと思います。
(文章:田原淳嗣)
“人口増“が地方自治体の生命線?人口減少局面の田舎まちのあり方とは
“地方創生“というテーマが取り上げられるようになって久しく、今では日本全国各地で“地域活性化“のための施策が打たれるようになりました。
ところで、みなさまが描く“地域活性化“とはどんなことですか?
人口増、特に“子育て世代“の獲得のために奔する各地の地方自治体。最近では高校生までの医療、給食無償化を図るなど、多額の税金を投じて“成長世代への先行投資“を行なう自治体も多くなりました。
道路や公共交通機関、ライフラインから通信回線に至る様々なインフラ整備も含め、勿論我々の暮らしが便利になることは有難いことですから、そうしたことを渇望する動きも各地である事でしょう。
開発される地方自治体の未来は“都会“か、“都心郊外“か。
しかし、こうした人口の奪い合いや、利便性の追求をはじめとした、“都会の二番煎じ“が、我々の地域にどのような未来を描くでしょう?
かつての日本の高度成長期に、都心に集まる人々の一部受け皿を担った“都心郊外“の地域がありました。その地域に今、どんなことが起こっているかを見ていきましょう。
財政非常事態宣言発令!埼玉県新座市

埼玉県新座市では、2020年10月に『財政非常事態宣言』が発令されました。新座市では、10年に渡り自治体の貯金ともいえる“財政調整基金“を切り崩し続ける状況が続き、いよいよその貯金が底を尽きかけているという状況なのです。
人口は16.6万人と県内でも10番目の大きな自治体。東京からも十分な通勤圏内といえる中でその恩恵を受けているはずの“都心郊外のまち“に今、何が起きているのでしょうか。
都心郊外“ベッドタウン“に開発された大規模住宅地の今。埼玉県春日部市

ベッドタウンで起こる不動産市場の三極化。埼玉県春日部市の現状から考える将来の姿とは?
今、都市郊外で起こっている問題は共通しており、大規模開発により作られたニュータウンに団塊の世代など、同世代の同収入レベルの人を一挙に集めた場所において、一斉に高齢化と空き家問題を抱える状態となっている。こんな自治体やニュータウンが、日本中に溢れているのです。
日本の高度経済成長期には最も収入があった層の人をターゲットとし、高級住宅街という触れ込みで大規模な開発をしてもすぐに完売して十分に儲かった反面、その一定層の人たちが生産力を失っていくにつれ、社会保障費などが爆増して自治体経営がままならなくなる。こうしたことは事前に予測が不可能なのでしょうか。
また、そうした事例があるにも関わらず、現時点での税収を優先して一定の世代を集めようとする動きは果たして新たな未来像を描けるのでしょうか…
かつての人気行楽地の行く末は…栃木県日光市鬼怒川温泉

栃木県日光市の鬼怒川温泉では、このような廃墟旅館群が立ち並び、迫力ある怪奇スポットとして話題を集めています。
日光市は東京からも適度な距離感で文化財も多いため、この鬼怒川温泉も含めて修学旅行などの基本コースになる事が多く、団体客などが途絶えず宿泊客に困ることのないこともあり、バブル期に沢山のホテルや旅館が建設されました。
景気が停滞する中、倒産したホテルはそのまま放置されてしまった理由としては、倒産した所有者が費用を捻出できなかった、川辺の景観を優先した立地には解体用重機などが進入できない、といった事情があるようです。
また、この地域一帯の旅館は大口のお客さんに慣れ過ぎて、小口や1人のお客さんへの対応力が低かったりするとか。
一時的に地域の景気を盛り上げたとしても、その後に莫大な負の遺産になるような資産を持ち合わせることはなかなかの恐怖なように感じられますね。
都心郊外にも勝ち組あり!千葉県流山市

千葉県流山市は、都心郊外の中でも成功事例で、時価が優位に上昇している地域です。
なぜ千葉県流山市は、資産価値の下がらない街づくりと子育て世代のブランディングに成功したのか?- 日本を変える 創生する未来「人」その7
この記事を読んでいただくとお分かりの通り、かなり効果的な施策に積極的に取り組み、他の自治体との経営能力の差を拡げ、子育て世代(稼ぐ世代)に優位に支持されています。
なぜこうした差が広がるのかというと、首長さんが選挙に強いから。この市長さんは毎回圧勝らしく、積極戦略を崩しません。選挙にギリギリでしか勝てない首長さんだと、次回の選挙のために及び腰になってしまうんですね。
ただしどの道、人の量は限られますから全ての自治体が勝ち組になれる訳ではありません。こういう力比べのような、、No.1を目指す自治体経営も一つの道ですが、同時に茨の道でもあるということです。
日本最先端の空き家率のまちからV字回復!静岡県熱海市

静岡県熱海市は、バブル期に別荘地として栄えたもののその後衰退し、一時空き家率が56.5%にも至りながらも、
まちづくりプレーヤーと、内在していた街の魅力がマッチングして、今や改めて人気の郊外地として注目される地域です。
リゾート地として、“モノ“の魅力を集約して一時爆発的な人気を博した後に飽きられたまちを再生しようとしている方々は、そこにあるモノの魅力に加えて“ヒト“の魅力を混ぜ合わせて、日本で最も深刻な空き家問題を抱えるまちを再生しようとしています。




熱海のまちの様子を見ていると感じるのが、バブル期に作られたものが、今だからレトロな魅力となっているようにも感じます。
こうした、“地層“のように折り重なった地域の歴史を掘り起こして魅力化を図ることも、まちの底上げに繋がるかもしれませんね。
人口は増えないのに地価は上がる。究極のSDGsなまち北海道下川町

さて、こちらは都心郊外から離れた過疎化まっしぐらのまちですが、実はこのまちも地価が上昇している注目のまちなんです。
なぜ日本北端の町の地価が、下げ止まったのか? ~「下川モデル」が過疎化解消のモデルとなる! – 長嶋修-現代ビジネス
森林が9割を占めるこのまちでは、首長さんが早くから“コンパクトシティ“の概念を取り入れ、中心地に人口を集中させながら、まちのエネルギー源を自前で調達する仕組みを取り入れて、
自治体の域内GDPが極限まで高まる安定した自治体経営にあるため、人口は減っても地価が上がるのだそう。
ススキなどを利用したバイオエタノール作りの際に発生する熱エネルギーをボイラーに利用し、まちの温水設備をまかなっているから、学校なんかも全館空調完備なんだそうです。
将来性を見据え、本来どんなまちを目指すのが“豊か“なのか。
少し空き家問題とは脱線したものの、全国的に起こっている都心郊外の典型事例と、尖った自治体経営の事例をご覧いただきました。
各事例から、どんなことが魅力に繋がりそうで、どんなことをすると危なそうかといったような様相のようなものは何となく読み取れそうですが、継続的な豊かさを持ち合わせるためには、

あらゆる世代が優位に関わり交わる文化を形成していくことが大切な気がしています。
世代や価値観の違う人との交わり合いは、ちょっと不便だったり嫌な思いをしたりすることとあるかもしれませんが、結局は永続性のある豊かな暮らし方への最短距離なんじゃないかと思います。
地方創生とは、そこに住む人にとっての“まち“の経営や未来のことを“自分ごと“にすることなんだと思います。そう考えると、ただ人を集めて税収を上げればいいというものでも、まちが無条件に便利になればいいというものでもないということが分かります。
田布施がどんなまちになればいいか、みんなで考えて、みんなにとって豊かで有意義なバジル地域になるように、みんなで地域を育てていけるといいですね。
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